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『コンプライアンス』、そして、ファイナンスや情報通信のそれぞれの分野の『関連法律知識』を重点テーマとしていきます。

2009年5月アーカイブ

最初に、条文をみてみます。

第1条趣旨) この法律は、消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法(明治29年法律第89号)の特例を定めるものとする。

第2条定義) この法律において「電子消費者契約」とは、消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう。

 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい、「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。

 この法律において「電磁的方法」とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。

 この法律において「電子承諾通知」とは、契約の申込みに対する承諾の通知であって、電磁的方法のうち契約の申込みに対する承諾をしようとする者が使用する電子計算機等(電子計算機、ファクシミリ装置、テレックス又は電話機をいう。以下同じ。)と当該契約の申込みをした者が使用する電子計算機等とを接続する電気通信回線を通じて送信する方法により行うものをいう。

第3条電子消費者契約に関する民法の特例) 民法第95条ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しないただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。

 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき

 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき

第4条電子承諾通知に関する民法の特例) 民法第526条第1項及び第527条の規定は、隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合については、適用しない。

まず、第1条で、この法律の趣旨が定められています。「消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合」と、「隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合」の2つの場合について、民法の特例を定めています。この特例の内容については、第3条、第4条で定められています。

 

そして、第2条で、この法律における「消費者」、「事業者」、「電磁的方法」、「電子承諾通知」の定義が定められています。

 

第3条で、「電子消費者契約に関する民法の特例」が定められています。

民法

第95条錯誤) 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

この民法第95条ただし書の規定は、次の2つの場合については適用しないものとしています。

 

一 「電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。」たとえば、ショッピングサイトで購入するつもりがまったくなかったのに、誤って購入ボタンを押してしまった場合が考えられます。

 

二 「電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。」たとえば、ショッピングサイトで数量1つ購入するために、購入数量を1と入力するところを、誤って11と入力して購入ボタンを押してしまった場合が考えられます。

 

ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合」については、民法第95条ただし書の規定が適用されるものとしています。たとえば、ショッピングサイトにおいて、購入ボタンが押されたときに必ず内容確認のページが表示され、購入の確認をするような措置をとっている場合や、ショッピングサイトにおいて、たとえば1クリックで購入手続きが完了するオプションも提供していて、購入者がそのような確認ページの表示がない手続きをとることをあらかじめ表明されている場合が考えられます。

 

第4条で、「電子承諾通知に関する民法の特例」が定められています。

民法

第526条隔地者間の契約の成立時期) 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する

 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。

第527条申込みの撤回の通知の延着) 申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。

 承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったものとみなす。

この民法第526条第1項の「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する」という規定は、「電子承諾通知」の場合には適用しないものとしています。つまり、「電子承諾通知」の場合には、契約は「電子承諾通知」が到達したときに成立するものとしています。

契約における信義則上の義務

民法の契約自由の原則は、私的自治の原則の考えから、私人間において当事者の自由な意志によって契約の内容を定めて締結できる、という原則ともいえます。

契約は当事者が相互に信頼しあって締結し、契約関係にある当事者は相互に相手方の信頼に応えるように誠実に行動しなければなりません。民法1条2項の信義誠実の原則(信義則)による義務となります。

 

第一条(基本原則)
 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
 権利の濫用は、これを許さない。

 

契約における信義則上の義務に関連して、契約上の付随義務、原則をいくつか簡単にあげてみます。

1.契約締結上の注意義務。契約当事者は、無効な契約締結のすることのないようにする注意義務をいいます。この注意義務を怠って契約の相手方に不測の損害を与えた場合は、契約締結上の過失責任が問題になります。

この契約締結上の過失責任は、

  1. 契約の内容が客観的に不能な内容であるために、契約が原始的無効である。
  2. 給付をしようとする者が、不能な内容であることを過失により知らなかった。
  3. 相手方が善意・無過失である。

の場合に認められると考えられています。

2.安全配慮義務。契約当事者の一方または双方が相手方の生命・身体などの安全を配慮すべき義務をいいます。

3.事情変更の原則。契約締結後、社会経済事情に、契約当事者が予想しえなかった急激な変動が生じた場合、契約の内容をこのような事情の変化に応じて変更修正し、場合によっては解約することもある程度認められる原則をいいます。事情変更によって当事者が契約を履行することが客観的にみて信義則上著しく不合理である場合に認められます。

民法の基本原則

民法の条文にはありませんが、民法のテキストには必ず取り上げられている民法の基本原則についてみてみたいと思います。

  • 権利能力平等の原則
  • 所有権絶対の原則
  • 私的自治の原則
  • 契約自由の原則
  • 過失責任の原則

条文にないため、いくつかの説がありますが、主にあげられるのがこの5つです。とても簡単にその内容をあげてみます。

権利能力平等の原則は、すべての自然人は等しく権利能力を有する、とするものです。

所有権絶対の原則は、私的所有権を認め何人に対しても主張できる権利である、とするものです。

私的自治の原則は、個人の自由な意思に基づいて私法上の法律関係を形成できる、とするものです。

契約自由の原則は、私法上の契約関係は個人の自由な意思によって決定される、というものです。

過失責任の原則は、過失がなければ責任を問われない、というものです。

内容の定義についても説がいくつもありますので、これに限られたものではありません。また、それぞれの原則は、相互に影響しあう関係にもあります。

つぎに、民法第1条は、基本原則についての条文です。

 

第一条(基本原則)
 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
 権利の濫用は、これを許さない。

 

私権の社会性を規定し、社会一般の倫理観念を要請する規定と位置づけられています。

なお、第2項は信義誠実の原則あるいは信義則、第3項は権利濫用の禁止、といわれています。

コンプライアンスと民法の基本原則

2009年4月1日以降に開始する事業年度から上場会社で導入されることになっている内部統制報告制度。この内部統制に関係してよく耳にするのが、コーポレートガバナンスコンプライアンス、といった用語です。内部統制コーポレートガバナンス(企業統治)の要素、手段のひとつとして位置づけられます。そしてコンプライアンス(法令遵守)は、それぞれの指針、原理のひとつとしてあげられます。

さて、コンプライアンス (Compliance) とは。

 

  1. 「従うこと、応じること、守ること」を意味する。
  2. 企業活動における法令遵守を意味する。(ビジネスコンプライアンスともいう。)

 

この2つの意味で使われていることが多いようです。企業不祥事の内容・態様にあわせて意味付けられるようにも感じられます。法令のほか、社会一般の倫理観念、ステークホルダー(企業の利害関係者)の要請、などがコンプライアンスの対象としてあげられることもあります。

内部統制とも関連して、 コンプライアンスは、社内規定や行動指針などについてもいわれます。経営組織のみならず企業全体組織の構成人員に課せられているといえます。この場合、企業と個人との私法上の法律関係があらわれてきます。そこには民法の基本原則である私的自治の原則契約自由の原則過失責任の原則がよくあてはまりそうです。そして、相互に民法第1条の基本原則を負うものと考えます。

 

 

第一条(基本原則)
私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
 権利の濫用は、これを許さない。

 

 

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 (2011.08.28 21:00)