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コーポレートファイナンス入門 4:資金調達の意思決定(資本構成と配当政策)

企業がどこから、どのような形で資金を調達し、そして得られた利益をどのように株主に還元するべきかを探ります。最適な資本構成の追求から、多様な資金調達手段の選択、そして株主を納得させる配当政策まで、企業の資金戦略を取り上げます。

4.1:資本構成の基礎

企業が事業に必要な資金を、自己資本(株式)と他人資本(負債)のどのような比率で調達するかを定めるのが、資本構成(Capital Structure)です。この構成は、企業の財務リスク、資本コスト、そして最終的な企業価値に大きな影響を与えます。

負債資本は、利息という金利負担があるものの、利息支払が損金算入できることによる節税効果(タックスシールド)や、株式よりも一般的に資本コストが低いというメリットがあります。ただし、元本返済義務があるため、財務的な柔軟性の低下や倒産リスクの上昇といったデメリットも存在します。

一方、自己資本(株式)による資金調達は、返済義務がないため財務の安定性を高めますが、株主の期待リターンが高いため、資本コストが高くなる傾向があります。また、株式の発行によって既存株主の持分が希薄化することも考慮すべき点です。

これらの特性を踏まえ、企業は負債と株式のメリット・デメリットをバランスよく比較検討し、企業価値を最大化するための「最適資本構成(Optimal Capital Structure)」を追求します。

この考え方の理論的背景として、モディリアーニ=ミラー(Modigliani and Miller)によるMM理論があります。MM理論の基本命題では、税金や倒産コストが存在しない完全市場では資本構成は企業価値に影響を与えないとされますが、現実の市場では、法人税の存在や財務的困難のコスト(倒産コスト)を考慮することで、負債を活用することが企業価値を高める可能性があると示されています。


資本構成(Capital Structure): 企業が事業に必要な資金を、自己資本(株式)と他人資本(負債)のどのような割合で調達するかを定めるものです。この比率は、企業の財務リスク、資金調達コスト、そして最終的な企業価値に大きく影響します。

自己資本(株式): 株主からの出資や、企業が稼いだ利益の蓄積など、返済義務のない資金源です。財務的な安定性が高い一方で、株主が求めるリターン(期待収益率)が高い傾向にあるため、資本コストは高めになります。また、新規の株式発行は、既存株主の持ち分を希薄化させる可能性があります。

他人資本(負債): 銀行からの借入金や社債など、返済義務を伴う資金源です。利息の支払いが必要ですが、一般的に株式よりも資本コストが低い傾向にあります。

タックスシールド(Tax Shield): 負債の利息支払いが、法人税の計算上、損金(費用)として計上できることによる節税効果を指します。これにより、実質的な負債コストが低減されます。

最適資本構成(Optimal Capital Structure): 企業価値を最大化するために、負債と株式のメリット・デメリットを最もバランスよく組み合わせた資本構成のことです。タックスシールドによる利益増加効果と、負債増加による倒産リスク上昇や財務的柔軟性低下といったコストを比較検討し、最適なバランス点を探ります。

MM理論(モディリアーニ=ミラーの定理): 資本構成に関する理論的背景を提供します。

  • MM理論の基本命題: 税金や倒産コストが存在しないといった「完全市場」という前提の下では、企業の資本構成(負債と株式の比率)は企業価値に影響を与えないと提唱されています。これは、資金調達の方法に関わらず、企業が稼ぐキャッシュフローの価値は変わらないという考え方に基づきます。

  • 現実の市場での考慮事項: MM理論は現実の市場を考慮すると修正が必要です。具体的には、法人税の存在(タックスシールドによる負債のメリット)や、財務的困難のコスト(倒産コスト)を考慮に入れると、負債をある程度活用することが企業価値を高める可能性があることが示されています。ただし、負債が増えすぎると倒産コストが上昇し、かえって企業価値を損なうリスクも生じます。


4.2:資金調達の選択肢

企業が利用できる資金調達手段は多岐にわたり、企業の成長段階や資金の用途、財務状況に応じて最適な方法が選択されます。

まず、エクイティ(自己資本)調達としては、最も一般的な「普通株式(Common Stock)」の発行があります。普通株式は議決権を伴い、企業の所有権を分散させる一方で、返済義務がないという特長があります。また、配当の優先権や残余財産分配の優先順位を持つ「優先株式(Preferred Stock)」も、特に資本調達と株主構成のバランスを取る手段として利用されます。

一方、デット(他人資本)調達としては、一定の利息を支払いながら資金を調達する「社債(Corporate Bonds)」や「銀行借入」があります。これらは返済義務があるため、財務リスクは増加しますが、タックスシールド効果や既存株主の持分を希薄化させない点がメリットです。

さらに、株式と債券の性質を併せ持つハイブリッド型の調達手段として、「転換社債(Convertible Bonds)」があります。これは一定の条件で株式に転換可能な債券であり、低金利で資金調達できる一方、将来的に株式希薄化のリスクがあります。

また、金融契約に付随する条件として、「コベナンツ(財務制限条項)」が設定されることがあります。これは借入先が企業に対して財務指標の維持や一定行為の制限を求めるもので、貸し手のリスクを軽減する役割を果たします。

加えて、スタートアップ企業や未公開企業にとっては、「ベンチャーキャピタル(VC)」や「/strong>プライベート・エクイティ(PE)」など、リスクを取って出資する投資家からの資金調達が重要な手段となります。これらは資金提供だけでなく、経営支援や成長戦略の構築にも関与するのが特徴です。

企業はこうした多様な選択肢の中から、資本コスト、リスク、コントロール権への影響などを総合的に考慮しながら、最適な資金調達手段を選定することが求められます。


エクイティ調達は、返済義務がない自己資本を増やす方法です。

普通株式(Common Stock): 最も一般的なエクイティ調達手段です。議決権が伴い、発行することで企業の所有権が分散されます。返済義務がなく、企業が倒産しても返済する必要がない点が特徴です。

優先株式(Preferred Stock): 普通株式とは異なる種類の株式です。議決権がないことが多いですが、配当の受け取りや、企業が清算される際の残余財産の分配において、普通株式よりも優先的に受け取る権利を持ちます。資本調達と株主構成のバランスを取る際に利用されます。

デット調達は、返済義務のある他人資本を借り入れる方法です。

社債(Corporate Bonds): 企業が発行する借用証書のようなもので、投資家から資金を借り入れる手段です。定期的に利息を支払い、満期時に元本を返済する義務があります。

銀行借入: 金融機関から直接資金を借り入れる方法です。社債と同様に返済義務があり、タックスシールド効果(利息が税務上の費用となり節税につながる効果)が得られます。また、株式発行と異なり、既存株主の持分が希薄化することはありません。ただし、返済義務があるため、企業の財務リスクは増加します。

転換社債(Convertible Bonds): 株式と債券の両方の性質を併せ持つ調達手段です。一定の条件(期間や株価など)を満たすと、社債を株式に転換できる権利が付与されています。企業は比較的低い金利で資金を調達できるメリットがある一方、将来的に株式に転換された場合、既存株主の持分が希薄化するリスクがあります。

コベナンツ(財務制限条項): 金融機関からの借入契約などに付随して設定される条件のことです。借入先(貸し手)が企業に対して、特定の財務指標(例:自己資本比率の維持)の達成や、特定の行為(例:多額の設備投資や M&A の制限)を求めるものです。貸し手のリスクを軽減し、企業の財務規律を保つ役割を果たします。

ベンチャーキャピタル(VC): 主に成長の見込まれる未上場企業(スタートアップなど)に対して、リスクマネー(返済義務のない出資金)を提供する投資会社です。単に資金提供を行うだけでなく、経営ノウハウの提供や人材紹介、成長戦略の構築など、多岐にわたる経営支援も行い、企業の成長を後押しします。

プライベート・エクイティ(PE): 主に未公開企業や、非公開化された企業の株式を取得し、企業価値を高めてから売却することで利益を得る投資会社です。ベンチャーキャピタルと同様に、資金提供だけでなく、積極的な経営関与を通じて企業価値の向上を目指します。


4.3:配当政策

企業が生み出した利益をどのように株主へ還元するかは、企業の財務戦略における重要な意思決定の一つです。代表的な株主還元の方法には、現金で利益を分配する「配当(Dividends)」と、発行済み株式を市場から買い戻す「自社株買い(Share Repurchase)」があります。

配当政策に関しては、企業が当期純利益のうちどの程度の割合を株主に配当として支払うかを示す指標として、「配当性向(Dividend Payout Ratio)」が用いられます。また、企業がまず必要な内部投資を行ったうえで、残った利益を配当に回すという考え方に基づくのが、「残余配当政策(Residual Dividend Policy)」です。これは、成長企業などにおいて、投資機会を優先する配当戦略の典型です。

さらに、配当や自社株買いといった株主還元策は、市場に対するメッセージ(情報)としても機能します。たとえば、配当の増加は企業が将来の収益性やキャッシュフローの安定性に自信を持っていると受け取られ、株価にプラスの影響を与えることがあります。このような影響は「情報効果(Information Effect)」や「シグナリング効果」と呼ばれ、配当政策が企業価値に多面的な影響を及ぼすことを意味しています。

したがって、企業は単に利益を分配するのではなく、成長投資とのバランスや資本市場へのメッセージ性も考慮しながら、配当政策を設計することが求められます。


配当(Dividends): 企業が稼いだ利益の一部を、現金で直接株主へ分配する方法です。株主にとっては定期的な収入源となります。

自社株買い(Share Repurchase): 企業が発行済みの自社株式を市場から買い戻すことです。買い戻された株式は消却されることが多く、発行済み株式数が減少するため、1株あたりの利益(EPS)や価値が向上する効果があります。

配当性向(Dividend Payout Ratio): 当期純利益のうち、どのくらいの割合を配当として株主に支払ったかを示す指標です。配当性向が高いほど、利益の多くを株主に還元していることになります。

残余配当政策(Residual Dividend Policy): 企業がまず、収益性の高い内部投資機会(成長投資)に必要な資金を確保し、その後に残った利益を配当として株主に還元するという考え方に基づいた配当戦略です。成長段階にある企業は、再投資を優先するため、この政策をとることがよくあります。

シグナリング効果情報効果): 企業が行う配当や自社株買いなどの株主還元策が、企業の将来の収益性や財務状態について、市場に対して何らかのメッセージ(情報)を伝える効果を指します。例えば、配当の増額は、企業が将来のキャッシュフローや収益の安定性に自信を持っているというポジティブなメッセージとして受け取られ、株価に良い影響を与えることがあります。


ファイナンシャル・プランニング
6つの係数

終価係数 : 元本を一定期間一定利率で複利運用したとき、将来いくら になるかを計算するときに利用します。

現価係数 : 将来の一定期間後に目標のお金を得るために、現在いくら の元本で複利運用を開始すればよいかを計算するときに利用します。

年金終価係数 : 一定期間一定利率で毎年一定金額を複利運用で 積み立て たとき、将来いくら になるかを計算するときに利用します。

年金現価係数 : 元本を一定利率で複利運用しながら、毎年一定金額を一定期間 取り崩し ていくとき、現在いくら の元本で複利運用を開始すればよいかを計算するときに利用します。

減債基金係数 : 将来の一定期間後に目標のお金を得るために、一定利率で一定金額を複利運用で 積み立て るとき、毎年いくら ずつ積み立てればよいかを計算するときに利用します。

資本回収係数 : 元本を一定利率で複利運用しながら、毎年一定金額を一定期間 取り崩し ていくとき、毎年いくら ずつ受け取りができるかを計算するときに利用します。

積み立て&取り崩しモデルプラン

積立金額→年金額の計算 : 年金終価係数、終価係数、資本回収係数を利用して、複利運用で積み立てた資金から、将来取り崩すことのできる年金額を計算します。

年金額→積立金額の計算 : 年金現価係数、現価係数、減債基金係数を利用して、複利運用で将来の年金プランに必要な資金の積立金額を計算します。

ファイナンシャル・プランニング
債券利回り計算(単利)

最終利回り計算(単利) : 債券を購入時点から、最終償還日まで保有していた場合に得られる収益の利回りを単利にて計算します。

所有期間利回り計算(単利) : 債券の購入時点から、最終償還日前の売却時点までの所有期間に得られる収益の利回りを単利にて計算します。