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コーポレートファイナンス入門 5:企業価値評価の基礎

M&Aや事業売却の根幹をなす企業価値評価の基本を習得します。DCF法をはじめとする主要な評価アプローチを通じて、企業の「真の価値」を算定するスキルを取り上げます。

5.1:企業価値評価の目的とアプローチ

企業価値(Enterprise Value)」とは、企業が将来にわたって創出すると期待されるキャッシュフローの現在価値を指し、M&A、事業売却、資金調達、組織再編などの重要な経営判断において、その評価は不可欠です。企業価値の正確な算定は、投資判断や戦略立案の根拠ともなります。

企業価値の評価には、主に次の3つのアプローチがあります。

  • インカムアプローチ(Income Approach)

    将来のキャッシュフローや利益を適切な割引率で現在価値に換算して企業価値を算定する方法です。代表的な手法がDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)で、最も理論的で汎用性の高い評価手法とされています。

  • マーケットアプローチ(Market Approach)

    類似する上場企業や過去のM&A取引と比較することで企業価値を推定します。代表例には、類似会社比較法(Comparable Company Analysis)や類似取引比較法(Precedent Transaction Analysis)があります。市場における相対的な位置づけを把握するのに有効です。

  • アセットアプローチ(Asset Approach)

    企業の保有資産および負債を時価ベースで評価し、そこから純資産価値を算出する方法です。代表的な手法に時価純資産法(Net Asset Value Method)があり、主に資産主体型の企業や清算価値の評価に適しています。

これらのアプローチは、企業の業種、成長性、上場状況、評価目的(例:買収・再編・清算など)によって適切に使い分ける必要があります。一般的には、DCF法が理論的な基準とされる一方、実務では複数手法の組み合わせによる三面評価が行われることも少なくありません。


企業価値(Enterprise Value): 企業が将来にわたって生み出すと期待されるキャッシュフローの現在価値を指します。M&Aや事業売却などの場面で、企業の経済的価値を算定する際に用いられます。正確な企業価値の算定は、投資判断や戦略立案の重要な根拠となります。

インカムアプローチ(Income Approach):将来の収益やキャッシュフローを基に企業価値を評価する方法です。

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法): 企業が将来生み出すと予測されるフリーキャッシュフロー(事業活動で自由に使える現金)を、適切な割引率(通常はWACC:加重平均資本コスト)で現在価値に換算し、企業価値を算定する手法です。将来の成長性を最も直接的に反映できるため、最も理論的で汎用性の高い評価手法とされています。

マーケットアプローチ(Market Approach):市場における類似事例と比較することで企業価値を評価する方法です。

類似会社比較法(Comparable Company Analysis): 評価対象企業と同業種で事業内容が類似する上場企業の株価や財務指標(例:PER、PBR、EV/EBITDAなど)を基に、評価対象企業の企業価値を推定する手法です。市場での相対的な位置づけを把握するのに適しています。

類似取引比較法(Precedent Transaction Analysis): 過去に成立した類似のM&A取引事例における買収価格や取引条件を参考に、評価対象企業の企業価値を推定する手法です。実際の市場で企業がどのように評価されたかを示すため、特にM&Aにおいて参考とされます。

アセットアプローチ(Asset Approach):企業の保有資産を基に企業価値を評価する方法です。

時価純資産法(Net Asset Value Method): 企業の保有するすべての資産と負債を現在の市場価値(時価)で評価し、資産から負債を差し引いた純資産価値を企業価値とする手法です。主に、多くの資産を持つ企業や、事業の継続を前提としない清算価値の評価に適しています。


5.2:DCF法を用いた企業価値評価のステップ

DCF法(Discounted Cash Flow法、割引キャッシュフロー法)は、企業価値評価の手法の中でも最も理論的かつ実証的に支持されている方法です。この手法では、企業が将来創出すると見込まれるキャッシュフローの現在価値を合算することで、企業全体の価値(企業価値)を算出します。

DCF法による評価の主なステップは、以下の通りです。

  • フリーキャッシュフロー(FCF)の予測

    まず、企業が事業活動から生み出す、自由に使用可能な現金(フリーキャッシュフロー)を、通常5〜10年程度の詳細な予測期間にわたって推計します。FCFは、営業キャッシュフローから設備投資や運転資本増減などを差し引いた金額で、企業が債権者や株主に自由に分配できる資金です。

  • 継続価値(Terminal Value)の算定

    詳細な予測期間の終了後も、企業は存続し価値を生み出し続けると仮定されるため、予測期間以降の価値を継続価値(ターミナルバリュー)として別途算出します。これは一般にゴードン成長モデル(永続成長モデル)や退出マルチプル法を用いて評価されます。

  • 現在価値への割引

    予測期間のFCFと継続価値を、企業全体の資金調達コストである加重平均資本コストWACC:Weighted Average Cost of Capital)で割り引くことで、企業の現在価値(Enterprise Value)を導出します。WACCは、自己資本コストと負債コストを資本構成に応じて加重平均したものであり、DCF法における重要な割引率です。

DCF法は将来のキャッシュフローや割引率の設定に一定の仮定が必要であるため、前提の妥当性や感応度分析による補完が重要ですが、理論的には最も精緻に企業価値を把握できる手法とされています。


フリーキャッシュフロー(FCF): 企業が事業活動から生み出す自由に使える現金のことです。具体的には、営業活動によるキャッシュフローから、事業を継続・拡大するために必要な設備投資額や運転資金の増減などを差し引いて計算されます。このFCFが、債権者や株主など、企業の資金提供者に対して自由に分配できるお金の源泉となります。DCF法では、通常5~10年といった詳細な期間にわたってこのFCFを予測します。

継続価値(Terminal Value): 詳細な予測期間(例:5~10年)が終わった後も企業は存続し、キャッシュフローを生み出し続けると仮定されます。この予測期間以降のすべてのキャッシュフローの現在価値をまとめて算定したものが継続価値です。計算方法としては、ゴードン成長モデル(永続成長モデル)という、キャッシュフローが一定の割合で永続的に成長すると仮定するモデルや、退出マルチプル法(予測期間終了時点の財務指標に、類似企業の市場マルチプルを乗じて算出する方法)などが一般的に用いられます。

加重平均資本コストWACC:Weighted Average Cost of Capital): 予測したFCFと算定した継続価値を現在価値に換算するために用いられる割引率です。WACCは、企業が資金を調達するためにかかる費用を、自己資本(株式)と負債(借入金など)それぞれの割合で加重平均したものであり、企業全体の資金調達コストを表します。

現在価値への割引: 予測期間のFCFと継続価値を、このWACCで割り引くことで、それらの将来の価値を現在の価値(Enterprise Value)へと変換します。これが最終的な企業価値となります。


5.3:バリュエーションにおける留意点

企業価値評価は、将来の不確実な事象に基づく予測を前提とするため、評価結果は設定する前提条件に大きく依存します。そのため、予測の正確性を担保するには、使用する前提条件の妥当性を慎重に検証することが重要です。

加えて、特定の変数(たとえば売上成長率、資本コスト、利益率など)を変化させた場合に、企業価値がどの程度変動するかを分析する「感応度分析(Sensitivity Analysis)」や、複数の現実的なシナリオ(ベースケース、楽観ケース、悲観ケースなど)を想定して評価を行う「/strong>シナリオ分析(Scenario Planning)」を用いることで、評価結果の頑健性(ロバストネス)を高めることができます。

さらに、一つの評価手法に依存するのではなく、DCF法、マーケットアプローチ、アセットアプローチなど複数の手法を併用し、結果をクロスチェックすることで、より客観性と信頼性の高い評価が可能となります。

加えて、企業価値には財務諸表に表れにくい無形資産や経営資源も大きな影響を及ぼします。たとえば、ブランド力、技術力、知的財産、人材の質、経営陣の戦略能力などの非財務的要素は、特に成長企業やスタートアップの評価において重要な要素となります。これらの定性的要因も含めて総合的に企業価値を判断する視点が求められます。


前提条件の妥当性検証: 企業価値評価の結果は、設定する将来の予測(売上、費用、キャッシュフローなど)や割引率といった前提条件に大きく左右されます。そのため、これらの前提条件が現実的で、論理的に矛盾がないかを慎重に検証することが、評価の正確性を担保する上で極めて重要です。

評価結果の頑健性(ロバストネス): 評価結果が、前提条件の小さな変化に対して大きく変動しない安定性のことを指します。不確実な予測を扱う企業価値評価において、この頑健性を高めることが信頼性向上につながります。

  • 感応度分析(Sensitivity Analysis): 特定の前提条件(例:売上成長率、資本コスト、利益率など)を一つずつ変化させた場合に、企業価値(またはNPVなど)がどの程度変動するかを分析する手法です。どの要因が評価結果に最も大きな影響を与えるかを特定し、そのリスクを把握するのに役立ちます。

  • シナリオ分析(Scenario Planning): 複数の現実的な将来のシナリオ(例:ベースケース、楽観ケース、悲観ケースなど)を設定し、それぞれのシナリオにおける企業価値を計算する手法です。複数の要因が同時に変化する可能性を考慮に入れ、リスクの幅や最悪の場合の影響を把握するのに有効です。

複数手法の併用(クロスチェック): 一つの企業価値評価手法にのみ依存するのではなく、DCF法(インカムアプローチ)、マーケットアプローチ(類似会社比較法など)、アセットアプローチ(時価純資産法など)といった複数の評価手法を組み合わせて利用することです。それぞれの評価結果を比較・検証(クロスチェック)することで、より客観的で信頼性の高い企業価値を導き出すことが可能になります。

非財務的要素(無形資産・経営資源): 財務諸表には直接表れないものの、企業価値に大きな影響を与える要因です。ブランド力、独自の技術力、知的財産(特許など)、優秀な人材の質、そして経営陣の戦略策定能力や実行力などが挙げられます。


ファイナンシャル・プランニング
6つの係数

終価係数 : 元本を一定期間一定利率で複利運用したとき、将来いくら になるかを計算するときに利用します。

現価係数 : 将来の一定期間後に目標のお金を得るために、現在いくら の元本で複利運用を開始すればよいかを計算するときに利用します。

年金終価係数 : 一定期間一定利率で毎年一定金額を複利運用で 積み立て たとき、将来いくら になるかを計算するときに利用します。

年金現価係数 : 元本を一定利率で複利運用しながら、毎年一定金額を一定期間 取り崩し ていくとき、現在いくら の元本で複利運用を開始すればよいかを計算するときに利用します。

減債基金係数 : 将来の一定期間後に目標のお金を得るために、一定利率で一定金額を複利運用で 積み立て るとき、毎年いくら ずつ積み立てればよいかを計算するときに利用します。

資本回収係数 : 元本を一定利率で複利運用しながら、毎年一定金額を一定期間 取り崩し ていくとき、毎年いくら ずつ受け取りができるかを計算するときに利用します。

積み立て&取り崩しモデルプラン

積立金額→年金額の計算 : 年金終価係数、終価係数、資本回収係数を利用して、複利運用で積み立てた資金から、将来取り崩すことのできる年金額を計算します。

年金額→積立金額の計算 : 年金現価係数、現価係数、減債基金係数を利用して、複利運用で将来の年金プランに必要な資金の積立金額を計算します。

ファイナンシャル・プランニング
債券利回り計算(単利)

最終利回り計算(単利) : 債券を購入時点から、最終償還日まで保有していた場合に得られる収益の利回りを単利にて計算します。

所有期間利回り計算(単利) : 債券の購入時点から、最終償還日前の売却時点までの所有期間に得られる収益の利回りを単利にて計算します。