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『コンプライアンス』、そして、ファイナンスや情報通信のそれぞれの分野の『関連法律知識』を重点テーマとしていきます。

機密情報と不正競争防止法

旧司法試験の過去論文試験問題をみてみます。

問題の全文については、法務省の Web サイト http://www.moj.go.jp/ にて公開されています。

平成13年度【刑法】第2問
『製薬会社の商品開発部長甲は,新薬に関する機密情報をライバル会社に売却して利益を得ようと企て,深夜残業中,自己が管理するロッカー内から新薬に関する自社のフロッピーディスク1枚を取り出した上,同じ部屋にあるパソコンを操作して同ディスク内の機密データを甲所有のフロッピーディスクに複写し,その複写ディスクを社外に持ち出した。その後,甲は,ライバル会社の乙にこの複写ディスクを売却することとし,夜間山中で乙と会ったが,乙は,金を惜しむ余り,「ディスクの中身を車内で確認してから金を渡す。」と告げて,甲からディスクを受け取って自己の車に戻り,すきを見て逃走しようとした。乙は,車内から甲の様子を数分間うかがっていたが,不審に思った甲が近づいてきたことから,この際甲を殺してしまおうと思い立ち,車で同人を跳ね飛ばして谷底に転落させた。その結果,甲は重傷を負った。
甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。』

平成元年度【刑法】第2問
『A会社の技術職員甲は、同社が多額の費用を投じて研究開発した新技術に関する機密資料を保管し、時折は研究のため自宅に持ち帰っていた。B会社の社員乙は、A会社の機密を不正に獲得することを企て、甲に対し、その保管する当該資料のコピーの交付を依頼し、礼金の半額100万円を支払い、残りの100万円はコピーと引き替えに支払うことを約束した。甲は、コピーを作成する目的で当該資料を一旦社外に持ち出し、近くのコピーサービスでコピーを一部作成し、30分後に当該資料を会社の保管場所に返却した。その後甲は、発覚をおそれてそのコピーを渡さずにいたが、乙に督促されたため、個人的に所有する別の資料のコピーをA会社の機密資料であると偽って乙に渡し、残金の100万円を受け取った。
甲及び乙の罪責を論ぜよ。』

 

どちらの問題においても、甲は、自社の機密を不正取引のために持ち出しています。そして、この点について、甲の罪責は「刑法」上、それぞれ異なる結果となることが考えられます。

 

平成13年度第2問における甲は、「自己が管理するロッカー内」から「新薬に関する自社のフロッピーディスク」内の「機密データ」を「甲所有のフロッピーディスクに複写」している。「刑法」上、情報自体は財物として認められていません。よって甲の罪責は、窃盗や横領にあたるとはいえず、結果、背任にあたると考えられます。

平成元年度第2問における甲は、「時折は研究のため自宅に持ち帰って」いた「新技術に関する機密資料」を不正取引のために「一旦社外に持ち出し」、「コピーサービスでコピー」しています。「刑法」上、資料上の情報は財物として認められています。よって甲の罪責は、窃盗あるいは横領にあたると考えられます。甲は「機密資料を保管」する立場であることから、結果、横領にあたると考えられます。(そして、乙に対する行為は詐欺にあたると考えられます。)

 

つまり、「刑法」上は、不正目的に情報を持ち出したとしても、その行為の状況によって罪責が異なることが考えられます。

 

「不正競争防止法」の平成15年改正で、営業秘密の刑事的保護が導入され、平成17年改正で、営業秘密の刑事的保護が強化されることとなりました。

「不正競争防止法」における「営業秘密」とは、

(1)秘密として管理されていること(秘密管理性)

(2)事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

(3)公然と知られていないこと(非公知性)

と定義されています。そして、この「営業秘密」を不正の手段により取得・使用・開示する行為を「不正競争」としています。また、「営業秘密」の保有者から「営業秘密」を正当に示された者が、不正利益目的・加害目的で使用・開示を行う行為も「不正競争」としています。

さて、上記問題の甲の行為が「不正競争」に該当するかどうか。とくに「秘密管理性」が問題となりそうです。

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 (2011.08.28 21:00)